よしこパンの雑記帳

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ホリガイははじめっからイノギさんのこと好きだったのね ー 『君は永遠にそいつらより若い』

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津村記久子さん『君は永遠にそいつらより若い』

 

大学生の無気力な日常を綴った話だと思って読み進めていると、登場人物たちの心の傷にフィーチャーされていく。

せつないけど、せつないまま終わらせない、闘う勇気と心意気がある。主人公の独特の言い回しも好きで、初めて読んだ大学生の頃から今に至るまで、ちょくちょく読み返している。

 

初めて読んだ時から変わらず響くのはこの部分

 

わたしはずっとイノギさんを気にしていたのだということを思い出した。わたしはイノギさんのことが好きなのだということを悟った。わたしの脳のメモリでは処理しきれないほどの情報が心に溢れかえり、思考の照明にあたろうと壁を這い上がった。おびただしく。

わたしはなにも振るい落とすことができなかった。なぜ愛は畏れと同じように僕の心には触れないのかと歌った人のことを思い出した。それは逆ではないのかと子供の頃に思った。よその家の便所で裸で震えながら、彼が正しかったことを悟った。

 

今回改めて読んで、主人公ホリガイはかなり始めから潜在的にイノギさんのことを好きだったのだなぁと思った。

知り合う前から何となく目で追ってたり、いつもは用が済むと放り投げる携帯を彼女とのメールのあとは放り投げなかったり、とある事件で深夜に一緒にタクシーに乗っている間ずっとこのままでいたいと思ったり。

 

愛という気持ちは、普段は気づかないくらい、当たり前にある感情なのかもしれない。

畏れのように敏感に感じ取れるようなものじゃないらしい。

私自身は経験を通してこのような悟りに行き着いた訳ではないけど、愛って、もっとさりげないものなのかもなぁーと想像できる。

ホリガイのこの気づきを読んで、自分の日常にも埋もれた愛はなかったか、脳のメモリを探って、読了するのにとても時間がかかった。